「life」を探す対談の2回目。相手は中国茶稽古「月乃音」を主宰する渡邊乃月さんです。金沢での稽古で中国茶を習い、近年は中国茶用の器も手がける辻和美が、渡邊さんから改めて中国茶との出会いや魅力、その広がりについて聞きました。
(T:辻和美、W:渡邊乃月、対談は2023年末、factory zoomer /shop・temporaryで行った。文・鈴木弘)
T:乃月先生と中国茶との出会いはいつですか?
W:学生のころアフタヌーンティーのティールームでアルバイトをしたのがお茶の始まりです。イギリスの紅茶文化をベースにした紅茶専門店で、ティーカップやスプーン等の茶器の美しさ、また家具などインテリアを含め生活の楽しみやライフスタイルを提案する豊かさに惹かれました。
T:最初は紅茶だったんですね。
W:学校を卒業した後アフタヌーンティーの母体の会社に就職して、神戸店に勤めました。紅茶の周りには人と人の間に温度が宿る、常に何か温かい幸福感を感じていました。実に楽しかったです。しかしその後に阪神淡路大震災で被災をし、この先の命の使い方を考え直すことになりました。自分の国のお茶のことを知らないことに唖然として、お抹茶やお煎茶も学んでみようと。会社を退職して日本茶の歴史を学ぶうち、ルーツの中国茶に行き着きました。
T:中国茶の勉強はどうやってされましたか?
W:大阪で教えている先生の元に半年通った後に一度退会しましたが茶を教える先生として手伝って欲しいとお誘いを頂きました。自分なりに茶の修業の途中だったし、当初は自分のお店を開くつもりだったので迷いましたが、結局そこで茶を教える仕事を 3 年間勤めました。
T:それから独立ですか。
W:はい。屋号は前から「月乃音」と決めていました。乃月は本名です。「月乃音」という名前を掲げて、自分が見たこと、体験したことを伝えたいと思っていました。それで 30 歳で独立して、まず中国・雲南省を訪ねました。世界の茶樹の起源の場所だからです。樹齢 3000 年以上の古茶樹が密集する深い森の奥を必死で歩いて茶樹に触れてその生態を体感しました。
T:わー、いきなり冒険ですね。
W:1 ヶ月間、バックパッカーで行き当たりばったりの旅です。中国語は全然できないのに人から人に情報を繋いでいただきながら、お茶の樹や文化に触れたくて分厚い地図を頼りに「茶馬古道」という、かつて馬が茶を背負って貿易を交わした石畳を北上しました。チベットまで行き高山病にかかったり食中毒にもなり満身創痍です。気軽にはお勧めできません。
T:茶葉の仕入れはどうやって行っていますか?
W:最初の頃はよく茶市場へ行きました。北京や上海や深圳など大都市には、大きな茶専売マーケットがあります。片っ端から茶葉を見て歩き、試飲を重ねて、また歩き、気に入れば購入します。帰国したら茶葉の特徴を掴み、個性を引き出す淹れ方を試す、の繰り返し。好きな茶葉に出会えたら、製茶時期に再び中国に渡り、直接茶山を訪ねます。茶師たちから茶樹の環境や土壌を案内していただき、製茶器具やアトリエを見学して交流を深めます。
T:凄い!自分で全て確かめてから仕入れるんですね。
W:茶葉との出会いはいつだって新鮮で興奮します。産地の山の上の彼らのシンプルな暮らし、温かなお粥や野菜スープなどの食事。使い込まれた碗や箸で一緒に飲み食いし、その生活様式に触れることも尊い体験です。
T:近年、中国や台湾のギャラリーから日本の生活工芸の作家に声が掛かり、現地で展覧会を開いたり、中国茶の道具を作ったりする機会が増えています。今までなかった動きではないでしょうか?
W:そうかもしれません。私も茶会や稽古の依頼を頂き、この数年は絶えず催しを重ねています。今年 (2023 年 ) は台湾、そして中国の上海、杭州、厦門、泉州、武夷山、池州などを歩きましたが、日本人の茶への思考や器の美的観念に対する中国人の興味や関心を感じました。面白い現象です。
T:中国茶の小さな器は作るのが楽しくて、私はこれからもずっと作っていきたいんですが、まだまだ日本人作家による中国茶器は始まったばかり、作り手も茶人と同じようにお茶について学ぶ真摯な姿勢が必要ですね。
W:修練の末に心技体は揃います。思考や道理が合っていれば、お茶は人の心の襞に瞬間的に入っていきます。おいしいお茶を入れるために何が必要か、その一点に向けて私は技量を磨きたいです。互いに高め合えるように期待しています。
T:幅が広く、奥の深い世界です。一過性のブームに終わらせたくないと思います。
W:お茶は世界で一番おいしい飲み物だと確信しています。より愉快に、より自由に、そして平和に、全人類が美味しい茶のあるひと時を共有できることを願っています。
渡邊乃月(わたなべ・のづき)1972 年奈良生まれ、福岡育ち。アフタ ヌーンティー・ティールーム SAZABY 勤務、中国茶教室での指導勤務を経て、 2004 年独立、現在は兵庫県芦屋川を拠点に中国茶稽古「月乃音」を主宰。中国や台湾など東南アジアの茶産地への フィールドワークを積みながら、茶稽古 を中心として茶会や喫茶などの活動を国 内外で重ねている。
-編集後記-
お茶のルーツを確かめるため中国の森の奥まで訪ねていった渡邊さん。修業時代の冒険物語は一冊の本になりそうです。美味しいお茶を求めて現地を歩き、修練を繰り返す。穏やかでありながら凛とした佇まいは、体験に裏打ちされた自信と確信から生まれるのでしょうか。(鈴木)
76th exhibition
tea or coffee ?
2024.05.24 fri. — 06.23 sun.
※6/4(火)は営業。5(水) 6(木) はお休みとなります。
※6/7(金)はお茶会参加のお客様のみのご入店とさせて頂きます。
会期中、展覧会のテーマに合わせたイベントを開催致します。
◯前期:coffee ? 05.24 fri. — 06.04 tue.
・6/1(土) 2(日) オオヤコーヒ焙煎所・オオヤミノルの一日半マスター(ご予約不要)
◯後期:tea ? 06.07 fri. — 06.23 sun.
・6/7(金) 月乃音・渡邊乃月 teeor cafe茶会(ご予約制)※ご予約受付締切ました