対談「life」を探しての5回目は陶芸家の井山三希子さん。シンプルでモダンながら温かみがあり使いやすい。毎日の暮らしに寄り添う器はどんな思いから生まれるのか、金沢ではどんな新作を見せてくれるのか。9月下旬からの展覧会を前に、辻和美が聞きました。
(Tは辻、I は井山、対談は2024年9月はじめ、東京都八王子市の井山工房で行った。文と写真・鈴木弘)
T:井山さんと私って同世代じゃないですか。正確には井山さんが一つ下なんだけど。(笑)今みたいにインスタなんかがない時代、展覧会の案内が来るたび「ああ、頑張ってるなー」って思ってました。DMを見ると私も励みになって、もうちょっと頑張ろうって。そんな意識をする相手でした。
I:いえいえ。私より1歩も2歩も前ですよ。扱う素材が違ってよかった。(笑)
T:それでちょっと古い話からになるんですけど、井山さんが今の作風、型にスライスした粘土を入れて焼くスタイルを始めたのはいつ頃だったんですか?
I:前職がギャラリーの仕事で、その頃に陶芸教室に通ってて、ろくろをやってたんですね。それから職業訓練校に行って。やっぱり独立したときはろくろで作りたいと思ってたんですけど、結婚した相手が高校から大学までずっとろくろを専攻してて、家にろくろが1台しかなかったので、2人で一緒には轢けないから、それで自分ができることが型だったんですね。それからもう型をやり始めて。
その後、ギャラリーさんから展覧会の話をいただいて、ろくろでって言われたから「1年ください」ってお願いして、練習したんですけど、やっぱり高台は削れないし中心は出せないし。べちょべちょの土が手に付くのも苦手で。でも、もともとプロダクトとか建築とかの方がやりたかったので、そういう意味では今、型の仕事でこういうデザインしたりっていうのは向いてたのかもしれない。
T:当時、陶芸で型の仕事をしてる人は他にもいたんですか?
I:いましたよ。それこそ北大路魯山人とかも。魯山人は木型で向付とか作ってます。職業訓練校では製陶所に入れるように、ろくろや釉薬の勉強のほかに石膏もかじってました。
T:じゃあ、お皿とか器とかを作って出していくことは「職業」って感じ?
I:そうかもしれない。陶芸家っていうのも嫌だし、アーティストとかいうのも嫌だし。食器屋かな。どうでもいいんですけどね、名前は。器を作って道具を作る人。前職が現代美術のギャラリーっていうのも大きかったかもしれないけど、アーティストなんてとても恥ずかしくて。
T:でも肩書きって要るでしょ。どこまでが許容範囲?
I:その辺は意固地にならずに、陶芸家って言われたらそれで流してますけど。やっぱり自分の中では道具を作る人。
T:型はどんな風に生まれるの? インスピレーションの始まりは?
I:一時、機内食の食器やカトラリーを見たりとか。やっぱり古いものを見たり、アンティークもそうですけど、古いものをそのまま写したりとか。今回ドイツに行ってもプラスチックのものを見たりしました。自分の使いやすいサイズとか、結局、手に取るものって結構同じものだったりするので、気に入った形があったらそれをサイズ展開していく感じです。オーバル(の皿)とかがそう。
T:そうですね、確かに井山さんの作品は。大体SMLがありますよね。それで何年目になるの?
I:独立したのが28歳だから、これで31年ですね。
T:その中で廃番になったものもある?
I:ありますよ、もう山のように。また引っ張り出して直したりもするんですけど。石膏と土って相性が悪いので、土の中に石膏が入ると土が駄目になってしまうんで、前は8月とか7月とか1カ月間、夏の間は石膏の型を作るというのを毎年やってて、秋から新しい作品を少し出すという感じだったんですけど、今はちょっと展示会が続きすぎてますね。
T:一番最初はスチレンボードとか削って作るの?
I:原型は土です。デザインしておいて、粘土である程度形を作ったら、周りに段ボールで囲いを作って石膏を流したら雌型が出来るんですけど、雄型はその雌型にもう一度石膏を流すわけです。
T:あー、だから型で作っている器なのに、形が柔らかいのね。
I:優しく言ってくれますね。知り合いのデザイナーからは「ちゃんと平行を出して」なんて言われますよ。
T:はたから見てると、井山さんは趣味がいろいろあるじゃないですか。以前は猫を飼ってたり、水泳とか、あと旅行とか。そういうのが制作の助けになってる?
I:水泳はできなくなったら結構すごいストレス。前は毎週4回行ってました。今は週3。もともとは肩こりがひどかったから。石膏型で指を使うから右の肩が上がらなくなって、髪の毛も梳かせない、布団から起き上がれないぐらい。前は鍼を打ってたけど1週間たったら戻っちゃう。だから体を倒しながら作ってました。30代前半の頃です。それが知り合いから「泳ぐといいよ」と言われたのがきっかけで、泳ぎ出したらはまって、肩こりも無くなりました。仕事終わりに泳ぎに行くのは体をほぐしに行ってる感じ。整えるというか。だからみんなに泳ぐの薦めてるんですけど。
T:あとはさ、井山さんの制作とか、ギャラリーの選び方とかを見てると、展示する場所の人と一緒に作るというか、打ち合わせを結構大事にしてるなと思うんですけど。
I:声を掛けられたのは何か理由があって、求められてるものがきっとあると思うので、話を聞きたいし、お客さんのことを知ってるのはそのギャラリーの人なので。初めての所はよく分からないから必ず展覧会の前に伺うようにしています。
だんだん年齢とともに常設にシフトしてますね。手伝ってくれてた人が抜けるし、来年からは展覧会を減らして1人でやっていこうかなと。これまで取引のあった所にダンボール2つぐらいを定期的に送って、もし難しいものは半年ぐらいたったら戻してもらうみたいなやり方で。自分が今作りたいものを作って、ある程度ギャラリーの希望も聞いてまた作品を送るっていう感じでもいいのかなと思ってます。
T:その中でも中国、韓国と海外の展覧会はちょっと増えてる? 日本と求められるものは違う?
I:中国も上海はもう10年になります。今回初めて韓国に行って、韓国でも中国茶がすごい流行ってたし、ちょうどお茶のフェアみたいなのをやってて、行ってみたら人気ぶりにちょっとびっくりしました。上海も北京もやっぱりギャラリーから中国茶の道具を必ず持っていくように言われますね。
T:中国茶の道具はどうですか、作っていて楽しいですか。
I:道具の大きさなどがよくわからず、同じ形を2回か3回ぐらい作り直した記憶があります。勉強していく時に作品のバリエーションも広がっていきますね。それに合わせて自分がどんどん作れるわけではないんですけどね。お茶の種類とか道具とか、中国茶は奥が深過ぎて、これ多分一生やっても覚えられないです。向こうの人たちが今まで中国茶で使ってた道具じゃなく、ちょっと異文化が入って同じアジア圏でもまた日本人が新しい感覚で作ったものとか、新鮮なんではないでしょうか?
T:この4月にオープンしたお店は「factory zoomer /life」って名前なんですけど、lifeって英語にはいろんな意味があって、生活とか日常とか人生とか宝物とか、場を盛り上げる人とか。ありふれた名前なんだけど、意味が意外と深くて。で、突然ですが、そのライフっていう言葉からは何が浮かびますか?
I:イメージするのは「生活」かもしれない。軽やかなイメージなのかも。生活、家族、日常・・・うーん。
T:じゃあ最後に、今回金沢ではどういう作品を見せていただけるのでしょうか?
I:今までの定番プラス少しだけ新しいことは辻さんからお題をいただいたイエローです。今までイエローはレモンイエロー一色だったんですけど、グラデーションをつけたりちょっとラインを入れたりっていうのが今回初めてです。いろんなものにラインを入れてみたんですけど、やっぱりシンプルな丸の形が一番合ったので、カップとかお皿とか、ちょっと小さいものに限ってるんですけどラインを入れました。
T:黄色に合わせてこちらではちょっとデザートでフォローさせていただきます。1週目のときに井山さんの黄色い器でプリンが食べられるようにしたいと思います。色は面白いですよね。基本的に白と黒がベースにあるから、それに対して何か色が入るのはね。井山さんはもうfactory zoomer /lifeの一部です、常設に欠かせない作家さん。展覧会、楽しみにしてます。
<略歴>
井山三希子(いやま・みきこ)1965年、東京生まれ。佐賀町エキジビット・スペース勤務の後、愛知・瀬戸の窯業職業訓練校を修了し、愛媛県で独立。2008年から東京・八王子に制作の場を移し、現在に至る。福井から始まった今年の展覧会は、ソウル、大分、金沢の後、鳥取、上海でも開催の予定。
<編集後記>
「文は人なり」というけれど、井山さんを見ていると「器も人なり」という言葉が自然に浮かぶ。出過ぎず、潔く、清らかに。自身が暮らしを楽しみ丁寧な毎日を送っているからこそ、使い手が求める形が生まれてくるのではないか。そんな気がする。(鈴木)
79th exhibition
iyama mikiko
2024.09.20 fri. — 10.20 sun.
●会期中の週末は、井山さんの黄色い器を使って黄色いデザートをご用意いたします。
・9/20~22 スーさんのプリン
・9/27~29 miette(高知) のエッグタルト
・10/12,13 ロヴァニエミ(札幌)のレモンケーキ
●9/20(金)12:00~14:00までのご来店は、事前ご予約制とさせて頂きます。
※ご予約受付は終了いたしました。