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対談:lifeを探して⑨「沖縄発、元気が出る服」

2025.04.11 interview

対談「lifeを探して」の9回目は、インド綿を中心に涼しくて着やすい、そして何より着ていて楽しい服で人気のSANKAKU。4月からの展覧会を前に、沖縄で暮らす女性3人組に会うため、辻和美が南の島へ飛びました。
(ミカ=山城美佳、ロミ=新垣裕美、サン=大城さゆり、対談は2025年3月中旬、沖縄市にあるミカさんの自宅アトリエで行った。構成・写真 鈴木弘)



辻:こんにちは〜。ひさしぶりです。元気にしてた? ついに沖縄に来ちゃったよ。今日はいろいろ根掘り葉掘り聞いちゃうね。まずはSANKAKUの始まりから教えてください。どんな出会いがあって、どうして洋服を作ることになったんですか。名前の由来はどこから?
ロミ:最初は私が暇で時間を持て余してて、ミカちゃんとほぼ毎日のように会ってた時期があったんだよね。週に6日ぐらい会って遊んでた。
ミカ:そう、鎌倉と逗子にあるchahat(チャハット)さんが、布展を沖縄で開催していて、そこに行ってそれぞれ好きな布を買って自分の服を縫うところからだよね。
辻:3人で行ったの。
ミカ:別々に。
ロミ:買うのは別々だけど最初はミカちゃんと一緒に服作りをしてた。
ミカ:ちょうど子どもが生まれて授乳の時期だったけど着る服が意外となくて。じゃあ自分で作ろうと思って。たっぷりした服なら(赤ちゃんを)がばっと中に入れちゃって授乳できて、ケープもいらないし。
辻:服って作ろうと思って作れるものなの?
ミカ:うちは母がもともと洋裁をしてたから身近に見てた。中3ぐらいからかな、教えてもらいながら服を作ってたの。
ミカ:実はその頃、親に内緒でガレージに家財道具を運んでフリーマーケットをしてた。あまりに暇だったし、お小遣いも欲しかったから。それがある時バレて、売るものがなくなった時、ちょうど内地の学校に行ってた(姉の)サンちゃんが帰ってきて、一緒に変な帽子を作って売ったりしてたの。
辻:何歳ごろの話?
ミカ:中3か高1か。
辻:わーませてる。
サン:私が20歳ぐらいだった。



辻:ロミちゃんはどんな感じで?
ロミ:私も体が大きいから自分の丈に合う服がなかなかなくて、自分サイズの服をよく作ってた。20代の頃から。うちも祖母が洋裁の先生で、母も洋裁学校に行ってて、子供の頃は服を作ってもらってた。そんなこともあって自分でも作ろうかなと。結婚で沖縄に来ることになって、ミカちゃんと出会って、サンちゃんも一緒に作ることになって、自分たちで着るものを縫うようになったよね。
ミカ:「あ、それいいねー」「どうやって作ったの」なんて言いながら作ってるうち、欲しいっていう人が出てきて、roguii(ロギ、自宅・カフェ)で並べてみようかって。
辻:カフェに並べたんだ。私も前に展覧会させてもらったわ。懐かしーい。そん時は、何点ぐらい出したの?
ロミ:最初は20点ぐらいだったかな。
辻:結構作ったね、んで、サンちゃんはすぐ縫えたの?
サン:私は洋裁の専門学校のパターン科に行ってて、1ミリでもズレたらダメみたいな世界で厳しく教えられたから、服作りって大変だなって思ってた。卒業した後は縫ってなかったんだけど、2人が自由に縫ってるのを見てなんか楽しそうだなーって。



ロミ:最初、サンちゃんが言ってる意味が分からなかったもん。
サン:2人みたいなほうが楽しく作れて、自分の体に合わせて作れるんだって発見した。学校ではもっとカチっとしたものを作ってたし、課題が多くて毎日忙しかったからなんか嫌だなって思ってたけど、そうじゃないところから入ったら意外と楽しいんだなーって。
辻:サンちゃんは、ガチなやつだったんだね。でも2人のその「楽しさ」が買う人に伝わってくる気がする。それで20着はすぐ売れちゃったの?
ミカ:そう、売れた。売れた中の1着をロミちゃんのお友達が着てるのを見たfog(フォグ、東京)さんが「うちでやってみない?」って声を掛けてくれたんですよ。それまでSANKAKUっていう名前もなかった。何か恐れ多いと思ってちょっと迷ってたんだけど、1年後にまた「やらない?」って言ってくれて、じゃあやろうかと。
ロミ:作った服を着てfogさんに行くと「買いたい」って言ってくれて、本当に買ってくれたりして。「うちでやってよ」って、2年ぐらい会うたびに言ってくれて。最初は冗談だと思ってたんだけど、だんだん本当にやってもいいのかもと思うようになって、それで2人に声を掛けたんだよね。
ミカ:40代でのデビューだよね。名前は最初、大きい3人だから「ジャンボ」がいいんじゃないかとか。挨拶みたいな名前で「こんにちは」の意味だし。
ロミ:ジャンボは絶対やだった。
ミカ:SANKAKUって思いついたのは多分、旅行中。3人でやるし3つの辺だし、あーいいじゃんって。
辻:表記のイメージは最初からアルファベット? それともカタカナ?}
ミカ:三角定規を思い浮かべたから、ひらがなとかカタカタとか考えなくて、ビジュアルから入った。それでアルファベットの大文字がスッキリするねって。
辻:最初の展覧会はどうだった?
ミカ:無名だったからインスタを始めて案内したら初日に人が並んでて驚いた。誰も来ないかもと思ってたのに20人ぐらいいて何でこんなに?って思った。
辻:それが何年ぐらいでした?
ミカ:2016年。春だった。
辻:何点ぐらい出したの。
ミカ:100点ぐらいかな。最初は少なかった。結構スカスカだった。
辻:作り方で特徴的なのは、3人がそれぞれ作るのが面白い。
ミカ:みんな自由。
ロミ:全てひらめき。デザイナーがいるわけじゃないし。
サン:「作ってみた」って感じ。



辻:何枚か作ったら集まるの?
ミカ:最初はミシンを並べて3人で作ってたんだけど、おしゃべりばっかりになって全然進まないの。効率が悪いから別々にやることになった。
ロミ:展覧会が決まってからは特に作らなきゃいけないから。別々に集中して作るようになったね。
ミカ:持ってきた時に「いいね」とか「また違うの作ろう」とか言い合って。
辻:3人が持ち寄った時に「これはダメ」とか「違うんじゃない」っていうのはないの?
3人:ない、ない、ない。
ミカ:自分は着なくても、誰かが着たら素敵って思うことがある。すごい似合う人が着たら急にキラキラして見えることがよくある。。
サン:自分が作ったものじゃない方がよく見えたりね。
辻:じゃあブランドの定義は。3人の誰かが作ったらそれはSANKAKUってこと?。
ミカ:あんまり固いことは言わない。
ロミ:布は一緒に見に行って買ったりするよね。
サン:買った布を途中で入れ替えたり。
ミカ:10メートルの生地なら3~4着作れるんだけど、自分が地味なの作ってたら明るいのが羨ましくなったりするから。



辻:生地はどこで手に入れるの。
ロミ:大体chahatさん。東京に行った時に生地屋さんを見たり、ネットで買ったりもするけど。まず3メートルぐらい買って試して、気に入ったら追加で買うかな。
辻:今回の金沢の展覧会が決まって一番最初にやったのは何。
ミカ:新作を作ると言っても、その時にすぐ欲しい布が手に入るわけじゃないから、基本的にはあるもの、手持ちの布から作るの。
辻:絵描きが手元に絵の具のチューブを持ってるみたいなものね。
ミカ:飽きて使いたくないなと思ってた布でも別の新しい布と組み合わせると良かったりするし。
ロミ:「金沢で5月」だから何にしようかなって考えて。私は思い付いたものから作っていく。
ミカ:前回、金沢ではパンツがよく売れたから、パンツを多めに作ろうとか。それならブラウスも欲しいよねって。
辻:それぞれが作ってからどこかで擦り合わせしていくわけ?
ミカ:どういうの多めに縫ってるかとかね。2人がこんなのなら自分はこうしようとか。
辻:へー、面白い。阿吽の呼吸って感じだね。グループで作るときって枚数を割り当てないと出来上がってこないんじゃないの?
ミカ:ノルマになると急にやる気がなくなるの。
ロミ:生地見て、「これパンツにいいな」とか決めることもあるし。
ミカ:やりたくてやってたことが、やらなくてはいけないことになったら嫌になりそうだから。
サン:厳しい関係じゃないのが、SANKAKUのいいところかもね。
ミカ:すごく目の粗いザルというか。
辻:その自由で、いい意味での緩さがあることがお客さんに伝わるんだと思う。
ロミ:お互いに信頼感があるから。誰かが何かの役割を果たしている、そのバランスがいいんだと思う。



辻:じゃあ作る時に大切にしているのは何。
ミカ:見に来てくれた人や買ってくれた人が「嬉しくなる」のがいい。着てて、後で「あ、ここ、こんなことしてある」とか「ポケットが違う」とか見つけたりして楽しめる。それを気に入ってくれたら嬉しい。
ロミ:やっぱり着ていて楽しそうなもの、ハッピーになるものがいいかな。着やすさも大事だし。
サン:2人と同じ(笑)。来る人もそういう感じで買ってくれてると思う。最初、ポケットは1つだった。右だけとか、左だけとか。
ミカ:技術的に難しかったからね。2年目にポケットが両方にあるのを見て、お客さんが「あ、2つあるー」って驚いてた。そういう反応があるからまたこういうの作りたいって思う。
ロミ:お客さんに成長させてもらってます。
辻:作って納品で終わりじゃなくて、そういうお客さんと話す時間も大事?
ミカ:年に1回でも2回でも、そういう時間があると違う。普段、自宅でミシンやってる時って孤独じゃないですか。どういう人が着るのか分からないまま作るより、やっぱりお客さんの顔が見えた方がいい。
ロミ:お客さんが着てる姿って見てみたい。
サン:着る人が着ると、急に服が都会的に見えたりね。
ミカ:売れ残ったものもちょっと手を加えたり加えなかったりして、ずっと出し続けて、似合う人に巡り合って旅立っていくとすごく嬉しい。
辻:展覧会の後に何か付け加えるのも面白いやり方だなあ。
ミカ:人が着てるのを見て「ここはこうした方がいいな」とか思ったりして。帰ってきてからまた直したり。フリルを付けたら可愛かったり。
辻:自分で作った服の直しは自分でするの? 他の2人が触ってもいいの?
ロミ:「やっとくね」って言って付けることもある。
ミカ:誰かがやってくれるとむしろありがたい。
辻:その3人の呼吸が凄いよね。普通、自分の作品は触られたくないんじゃない? デザインが変わるわけだし。
ロミ:誰かが手を入れると何かミラクルが起きるんじゃないかって思う。だから全面的にお願いしたい。



辻:うちは基本的に器のギャラリーだけど、SANKAKUさんの服を楽しみにしている人が多いんですよ。
ミカ:金沢は沖縄より暑いかも。
辻:湿気が多いから。だからすぐ乾く服は夏の金沢に欠かせないんです。
辻:それで新しいお店は「ライフ」って名付けたんだけど、ライフという言葉から思い浮かべることは何かある?
ロミ:日常。日常にSANKAKUがあってよかったなーって。SANKAKU and life. 名前聞いた時、すごい素敵だなーって思った。
辻:30代で作る店じゃないし、直球のネーミングがいいかなと。4月6日にオープンしたからちょうど1年になる。
ミカ:SANKAKUは1周年企画だ。
辻:いっそ「1周年記念」って銘打ってやる?
ロミ:うん、めでたい。
サン:なんかユーモアにできる力はいいね。笑えたら大変なことも何とか乗り越えられる。真面目になったら自分も疲れちゃう。
ミカ:泣くことは簡単だけど、面白いことも中にはあるから、そっちを見た方がいいし、泣いたって何も出来ないし。
辻:なんかジーンとくる。
ロミ:ライフ=修業。人生ユーモアが大事なので、それを笑いに変えて生きてる。感情の揺れとか、さまざまな出来事とかあるけど、SANKAKUが救ってくれたところがある。バランスよく働いている。
辻:自分たちの手で作れる範囲で作ってるからいいのかも。服作りって人気が出るとどんどんデザイナーの手から離れていくでしょ。
ミカ:前に工場で作る話があったけど、うちのお客さんはそれ欲しいかな?
ロミ:魅力がなくなっちゃうよね。生地合わせの楽しみも無くなるし。
サン:自由で伸び伸びしたところが薄まっちゃいそう。
ミカ:採算を考えると同じものを何枚も作ることになるし。そうなるとやりたいことじゃなくなるから、やらないでおこうと決めた。



辻:じゃあ最後の質問。今回は金沢でどんなものを見せてくれるんでしょうか。
ミカ:金沢って都会でキレイでしょ、品があるっていうか。そんな街に似合う感じにしたい。(笑)
ロミ:ユーモアと品のバランスかな。
ミカ:一枚生地とパッチワークと作ってるけど、そんなに奇抜じゃないもの。日除けになるし、クーラーの部屋でもいいかなーって。あとパッチワークのバッグも作ってる。
ロミ:ワンピースのほかサロペット、アシンメトリーな羽織もあるよ。
辻:(ハンガーにある服を見て)あ、ウシがいる。
サン:前の展覧会の時「ウシ」「ウシ」って言われたから。
辻:あ、すごい。トラもいる。
ミカ:ウシの次、今度はトラがくるかな? 


<略歴>
SANKAKU 山城美佳(1975年、沖縄市生まれ)、新垣裕美(1973年、東京都生まれ)、大城さゆり(1970年、沖縄市生まれ)の3人による洋服制作ユニット。2016年から活動。インド綿を中心に「涼しく着やすく楽しい服」を制作し、地元沖縄をはじめ、東京、台湾、金沢などで展覧会を開催。さまざまな色や柄の生地を組み合わせたカラフルな服で女性ファンの支持を集めている。

<旅のメモ>
小松から約1400キロ、2時間半のフライトで着いた那覇空港では色とりどりのランがお出迎え。ホテルに向かう途中、古民家居酒屋「なんじぁぁれ」(宜野湾市)で新鮮な那覇マグロ、もずくの天ぷらと初めて出合う。2日目は「麺家丸翔」(うるま市)でカツオだしの利いた沖縄そばの旨さに感激し、取材後は「あしびJima」(宜野湾市)でグルクンの唐揚げ、どぅる天(タイモの天ぷら)など滋味豊かな沖縄料理で打ち上げ。

<編集後記>
女3人寄れば「姦(かしま)しい」なら、洋服好きの明るく元気な4人が集まったらどうなるか。編集はもはや不要(不可能)です。聞き取れた範囲で言葉を拾いました。ほぼフルバージョンで4人のやり取りをお届けします。(鈴木)




83rd exhibition

sankaku

2025.04.18 fri. — 05.25 sun.
●4/18(fri.)-20(sun.) 沖縄 宗像堂さんのカトルカール、シークワーサーソーダ

photo by suzuki shizuka


   

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