対談「lifeを探して」⑲「理想を支える職人の手の力」
対談「lifeを探して」の19回目は、factory zoomerの「glass⇄plastic」展にちなんで工房のツートップを交えた特別編。工房には制作に携わる5人の職人スタッフがいますが、今回は、辻和美の制作を補助する吹きガラスのリーダー岡田歩、カットから工程管理まで担う工房長の島元かおりにスポットを当てました。
(対談は2026年7月、金沢市内の工房事務所で行った。構成・鈴木弘、写真・沼田万州美)


辻:2人はズーマに来てどれぐらい経ったかな?
岡:入ったのは25歳の時だから確か2005年です。最初はアルバイトでしたけど、今年の3月で丸21年になりました。
辻:そんなになるのね、早いねー。
島:私は大学を2014年に卒業してすぐ入ったから今年の3月で12年が経ちました。今年は13年目です。
辻:干支が一回りしたね。2人は最初は、大学でガラス工芸を学んだんだよね。出身校はどこだっけ。
島:長岡造形大学(1994年開学)の美術・工芸学科です。今は公立になりましたけど、私がいた頃は私立の学校でした。働いて奨学金を返しました。
岡:私は倉敷芸術科学大学(1995年開学)です。まだ出来て新しい所でした。実家が岡山で割と近かったので。
辻:私が留学から戻って就職した金沢卯辰山工芸工房ができたのが平成元年(1989年)でしょ。あの頃は全国でガラスがブームというか、専門の教育機関が次々にできて、ガラスを専攻する学生が増えた時期だったな。倉敷や長岡もそうだよね。それで、2人がズーマで働くことになったきっかけは?
岡:大学4年の時、ガラス作家の大村俊二さんのワークショップに参加して、そこに講師として来ていた和美さんにお会いしたのが最初です。そこからのご縁ですね。

島:私は長岡の中村(和宏)先生から「和美さんがスタッフを探してる」って聞いて、それで紹介してもらいました。
辻:2人は、何でガラスを制作の素材に選んだの? 素材と出会った経緯は?
岡:高校は家政科だったんですけど、実は美術系に興味があって。父親の同級生が北海道にいて、その伝手でガラス工房をいくつか見せてもらい、制作の行程に魅力を感じ、そこから倉敷の大学を目指すことにしたんです。絵の塾に行って一夜漬けみたいな受験でしたね。
島:私はシンプルですよ。元々は絵画志望だったんですけど、高校時代に和美さんの作品を見て、こんな絵を描こうと思ったんですけど、平面じゃ表現しきれなくてガラスにしようと長岡の大学に行ったんです。そこで吹きガラスをするつもりが、学校の事情でできなくて。そんな時に和美さんが授業に来て、いろいろ作品を見せてくれたんです。その中にあったしのぎの作品が特に印象的でした。
辻:廣島(晴弥)君がカットしたしのぎだね。
島:あれを見て「これだ」って思ったんです。それで私はカットでいこうと決めました。辻和美でできてるんですよ、私は。
辻:なんだよ、それ、嬉しいなー。じゃあ自己紹介を兼ねてそれぞれの現在の仕事や役割を話して。
岡:まず吹きガラスで作品を作ること。そして和美さんがブローする(吹く)時のアシスタントですね。ホットショップ(溶けている熱いガラス)の仕事です。他のスタッフへの制作の指示や機械の管理も担当です。あとは作品の梱包やお客さまへの発送もします。
島:私はコールドワーク(成形された後の冷えたガラス)全般です。主に作品のカットと研磨ですね。他にスタッフのシフト管理やら何やらを工房全体を見ながらやってます。あとはワンコのお世話を。
辻:ワンコの世話はうちの工房では大事だからねー。(笑)
島:制作の話で言うと、吹きで形ができた後、冷めて炉から出てきたガラスはほぼ全て私の管轄になります。
辻:すごいね。その意気込みは素敵! 私は、ホットワーカーとコールドワーカーがちゃんと常時いる工房が昔から理想だったんだよね。吹いた形に、表面の模様をカットでつけたり、仕上げをきちんとする。安定感のある座りの良い器を提供したいと思っている。で、2人は、職人として働く上で一番大事にしてることは何?
岡:自分が任された仕事はやり通す、ってことですかね。あと作った作品をチェックするんですけど、お客さまの手元に届いた時に喜んでもらえる仕上がりかどうかを判断することが大事だと思っています。
辻:素晴らしい。島ちゃんは?
島:カットにしろ模様つけにしろ、自分の好みはいったん脇に置いといて、和美さんのイメージをそのまま反映できるように、和美さんの頭の中のデザインをガラスの作品に全て落とし込むことを一番に考えています。研磨に関してはガラスの状態がどんなものでも簡単に捨てない。傷を直したり、傾きを修正したりして、何かしら作品に昇華させて、お客さまの前に出すように意識しています。

辻:島ちゃんは、作ったモノは、ちょっと曲がってたりしてもすぐに捨てないね。あとで、何かになるかもしれないものね。「秘蔵っ子」とか言って、隠してるよね。工房を運営している側からすると大事なことだよ。ところで、私と一緒に働く難しさって何?
岡:和美さんが理想と現実の間で頑張ってるのをサポートすることですかね。
辻:ありがとうございます。いつも大変だよね。そう、クリエイティブは理想と現実の間を行ったり来たりしてるんですよ。制作の面でも金銭の面でも。
島:和美さんがしたい模様と私の持ってる技術とのすり合わせは確かに大変ですけど、そこが楽しい部分でもありますね。仕事をしていて一番楽しい時間かも。

辻:2人ともうちに勤めて長いけど、印象的な失敗談とかある? 苦労話でもいいよ。
岡:もう15年ぐらい前だと思うんですけど、仕事終わりのルーティンで徐冷炉のスイッチを押し忘れて、次の日に来たら100度以下に下がっているはずの温度が500度のままで、冷めるまで制作できないという失敗がありました。それも加倉井(秀昭、ギャファー)さんが大物を作りに来ている時で皆さんに大変ご迷惑をおかけしました。
辻:ああ、あれか。ルーティンが一つ抜けちゃったんだよね。そんなこと気にしてたんだ、ずっと、バカだな〜。
岡:そうです。ボタンを2から3にしないといけないのをステップし忘れました。もうトラウマみたいになって、あれから家に帰る前に3回は確認するようになりました。それでも心配で工房にまた戻って再確認したこともあります。だって次の日、作業ができないし、電気代もかかるし。
辻:まあねー。他に制作の上での苦労話はどう。
島:展覧会で目玉になるような、加倉井さんが作る一点ものがあるじゃないですか。あれの底が割れちゃって大きくヒビが入ったのをどうにか全部削って別の形にしてなんとか作品に仕上げたことがありました。
辻:割れてるとこ全部削ったんだよね。
島:一部だけ削るとそこだけ直した跡が目立つから。本当は丸い形だったのを抉ってシャープな形に作り変えたんです、コールド側の仕事として。展覧会のメインを無くすわけにはいかないから、あれはプレッシャーでした。失敗談はいっぱいありますよ、もう数えきれないほど。業者さんへの発注をミスったり、掃除の時にペンキをぶちまけたり。制作に関しては色んな人に怒られてきました。挫折もしました。泣きながら「すみません」って言ったら、和美さんから「謝る言葉はいらないから」って返されたこともあったし。
辻:えー覚えてない。何で泣いたんだっけ。
島:大学出たてで、最初は磨きの仕事ができなかったんです。慣れないし、覚えられないし、仕事の量は多いし。それで。
辻:じゃあ今の20代のスタッフ見てると懐かしい感じがする? 自分もそうだったな、って。
島:そうですね。
辻:それでズーマはこのところ中国茶の器や道具に取り組んでるわけだけど、新しいテーマが出てきた時の気持ちって、どんな感じ。
岡:やっぱり頭の中では現実的なことを先に考えますね。課題と技量をすり合わせる中で、ああ大丈夫かな、やっぱり無理かなって。最初から安全策でいくのはあんまり良くないかもしれないけど。
辻:いやいや大丈夫。制作班としては作品として成立させなきゃいけないわけだから現実は大事。私は思考する方だから、どっちかと言えばぶっ飛んでくわけですよ。現実を考える人がいないと作品は完成しないからね。

島:私は一緒にぶっ飛んでいくタイプなので。面白そうと思ったら、あれもしましょう、これもしましょうって言って、後で皆んなに怒られる。
辻:そういう意味ではいいバランスだよね。ぶっ飛んでるのと抑えるのとが一緒にいて。それで今回の展覧会「glass⇄plastic」(グラスプラスチック)に関して、始めた時はどんな風に感じた? これはガラスの代替品として生まれた古いプラスチックのコップをもう一回ガラスに戻すっていう、私のちょっとした遊び心で2017年から始めたシリーズなんだけど。
岡:別にそんな驚きはしなかったですよ。
島:そう、想定内というか。
辻:はいはい、って感じ?
岡:不透明な色をちょっと薄めたりするんだな、和美さんらしいな、みたいな。
辻:作品自体がきれいだし、プラスチックみたいなガラスという驚きもあるだろうし、この逆写しが見る人の価値観を刺激してるんじゃないかな。少しずつ中身を変えながらあちこちで発表してるけど、いつもお客さんの反応はいいよ、楽しんでくれてるみたい。それでグラプラの制作で特に気を付けてることは何かある?
岡:今回はイベントで御菓子丸さんが使う新しい器がありますよね。あの器は形がとても重要なのかなと思っています。形の綺麗さを追求したいと考えています。
辻:うん、そうだね。あと発色が難しいよね。前と同じ番数を使ってるのにガラスの色が安定しない。色を作る海外の職人の問題じゃないかと思うんだけど。
岡:特に派手な色ばかり割れるんです。同じ番数でも個体差が結構あって。
辻:代替色を探して作ったりしてるよね。御菓子箱みたいな形もあるけど、あのカットは難しくない?
島:私はプラスチックの見本にできるだけ忠実なサイズを出してカットできるようにしているんですけど、うちの工房にある機械でできる範囲があるから、それを確認しながらできるかどうか和美さんとすり合わせをするようにしています。
辻:ほとんどそのものみたいに写すものもあるけど、元の形の要素を取り入れながらデフォルメするものもあるし。ガラスで作った時に違和感がないようにしないといけないからね。
島:私はカット模様つけなので、ブロワーさんたちには「もう少しここを肉厚にしてほしい」とかいうリクエストはあります。ある程度の厚みがないと削れませんから。
辻:まあプラスチックの逆写しとは言ってるけど、実はうちがスタンダードでやってることを上手く応用していく。自分たちが持ってるものと共通した部分を見つけてうまく当てはめていく。ぶっ飛んでるとは言いながら、現実的なことも考えてるんだよ。いきなり新しい形は作らないでしょ。そこはちゃんと計算してるつもり。
辻:色に関して言えば、プラスチックが経年変化してくすんで薄茶色くなるじゃない、タバコ色に。うちではFRPって呼んでるけど。あの色が私は好きでよく使ってるよね。FRPは色が濃くても薄くても綺麗だから、今回もいっぱい使いたいかな。一見汚く見えるものがよく見ると実は綺麗だということをお客さんに見つけてもらいたい。あとピンクのペットボトルも作るよ。


岡:このシリーズは半透明な仕上がりだから、透明なガラスに少ない量の色をきせるのが難しいですね。ムラなく均等に色をつけるにはやっぱり慣れが必要で。ガラスを巻いた竿の先につける色はほんとに豆粒ぐらいの少量ですから。重さにしたら1グラムとかそれぐらいじゃないですか。
島:コールドの作業場から見ていても、色は難しいなと思います。でも会場にカラフルな作品が並ぶとおもちゃ屋さんみたいで楽しいですよね。
辻:出来上がった作品がハッピーな感じ、幸せ感があるよね。作品自体が可愛らしくて、見てて気持ちが明るくなるような。そういう人に幸福感を与える作品って大事だと思う。だからどこの会場でもお客さんに喜んでもらえるんじゃないかな。

<略歴>
岡田歩(おかだ・あゆみ)1980年、岡山県生まれ。倉敷芸術科学大学卒業。金津創作の森ガラス工房(福井県)で2年間ブローを修業。2005年からfactory zoomerのスタッフとなり、現在は吹きガラスのリーダーを務める。

島元かおり(しまもと・かおり)1991年、群馬県生まれ。長岡造形大学卒業。在学中、江戸切子で知られる気賀沢雅人氏にカットの技術を学ぶ。2014年にfactory zoomerに入り、カットや研磨の腕を磨く。工房長として制作のほか工程管理やシフト調整も行う。
<編集後記>
前回の対談に登場した奥村忍さんがそうだったように、2人のスタッフもまた作家や作品との出会いがその後の人生を方向付けていました。ズーマが送り出す作品も手にした人にとって何かのきっかけや力になれば、それは作り手冥利と言えるでしょう。(鈴)
93rd exhibition
glass⇄plastic
2026.07.24 fri. — 09.06 sun.

●初日の7月24日(金)終日〜25日(土)15時までは、招待状をお持ちのお客様のみのご入場とさせていただきます。招待状をお持ちでないお客様は、7月25日(土)15時以降にお越しください。