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三谷龍二さんのご紹介2

2020.09.1 column

入口から入ると奥には飾り棚が見えてきます。飾り棚には三谷さんの作品が並べられ、ちょっとした美術館のようです。隣の窓から雑木林が見えます。工房には、大きな窓がいくつもあり、季節によって目に入ってくる景色が変わり、毎日の色を感じることができるのだなあと思います。


こちらは「漆室(うるしむろ)」「漆風呂(うるし風呂)」といって、漆を1層塗るごとに、温度湿度を保った漆室に制作途中の漆器を入れて乾きをまちます。漆塗りの仕事は湿度と気温がとても重要な条件となります。 漆の場合「塗りが乾く」とは、熱で水分を飛ばして乾燥することではなく、空気中の水分と合成して硬化することをさします。湿度が低いと塗った表面がいつまでたっても柔らかい状態が続き、逆に湿度が高すぎると急激に固まるという現象が起きて失敗となります。 漆の作品は、木地を制作して、漆を塗り、硬化を待ち、また塗り重ね、、、と完成までに約3ヶ月を要します。自然の植物である木やウルシを扱うことは、技術面だけでなく長年の経験に基づいて、季節によって異なる温度や湿度にあわせて対応してゆく知恵や能力が必要となり、作品作りとは、自然と隣り合わせであることを実感します


こちらは、三谷さんの絵を描くアトリエです。ここにも2つの窓があり、自然がいつもそこにあって、その移ろいを見ながら制作されているのを想像します。
作品とは、制作の場所や、いつも目にする風景、肌に感じる空気、などがとても重要なのではないかと最近思うようになりました。そして、それは生まれ育った場所や記憶、今までに影響を受けたこと、また何気なく毎日見ている風景など、心や身体で感じてきたことは、いつの間にか頭や、身体、感覚の記憶の中に染み込み、作る手から作品に伝わっていくように思います。

私が初めて三谷さんが描いた絵を見た時に、生まれ育った福井県の空気をまとっているのを感じました。北陸の冬の空のような、少し湿気を帯びた空気。そして、それは三谷さんの漆の作品の中にも同じものを感じています。

三谷さんにとって転機となった、2001年のブリキ星(ギャラリー)で開催された展覧会では、器とオブジェがひとつの空間にあり、とても風通しがよかったそうです。風通しが良かったという言葉がなんとも三谷さんらしいなあと思ったのですが、きっと、三谷さんの器を制作する気持ちと、オブジェを作る気持ちが同じであること、それらは「生活」という目線から生みだされていることが、ブリキ星の空間の中で、器とオブジェが自然なかたちで存在していたのだと思います。そして、絵を描く気持ちも同じであること、もお話ししてくださいました。

今回三谷さんの工房にお邪魔して、そのブリキ星での空間は、三谷さんが普段から見ている光景や、空気感に近いのではないかと想像しています。冒頭に触れた、工房の飾り棚には器とオブジェが同じ棚に何気なく並べられ、器がオブジェに見えたり、絵に見えてきたり、三谷さんが日常に使っているモノとも、同じ空間の中で時間を共にしていることで、モノとモノとが行き来している感じがしました。

また、絵やオブジェには食事を食べたり、盛ったりなどの用途はありませんが、その人の生活に必要なものとして用があることが、三谷さんの絵やオブジェからうかがえます。朝起きて今日一番に挨拶する絵、いつもそこにいて何だかこっちを見ている犬のオブジェ。そこにあること、いることが当たり前のような安心感、見守られているように感じる日もあり……そんな感覚はもちろん器にもあります。コーヒーの匂いが染み付いた道具をいれるトレー、じんわりと温かさが手に伝わる漆のカップ。
モノには、目に見える用途と、目には見えないけれども、そこになくてはならない用途があり、それらが毎日の生活の中に共存していること、それが、いつの間にか感じている居心地がいいという空気なのではないかと思います。

今回、奥様の順子さんに、日常生活の中で毎日使う三谷さんの器についてお話をおうかがいしました。
順子さんは、「作品ひとつひとつには強い主張はないけれども、使っていくうちに信念を感じられる器です」と話してくださいました。また、「だいたいのものが良く見える」とおっしゃっており、それは、器と器同士、器と食材が「調和すること」、これって「使いやすさ」だとおっしゃっていました。
この「調和する」「使いやすい」って、何でもないことのように思えるかもしれませんが、実は、日常生活の中で毎日使うモノ、いや、いつのまにか今日も手にとって毎日使いたいモノ、としてとてもすごいことだと思うのです。三谷さんが使い手側に立って制作されていること、また、生活をとても大切にされていることが作品から伝わってきて、そこに三谷さんの信念を感じます。そして、調和することは、器だけでなく、オブジェ、絵、モノ、同じ空間の中で心地よく存在することが、三谷さんの作品の強さなのではないかと今回工房にお邪魔して思いました。

今展覧会では、絵と器を一緒に展示する予定です。ぜひいろいろな角度から、様々な感覚で、三谷さんの作品を感じにいらしてください。

(文責:柳田歳子)

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