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クリスマスツリー「reclaimed blue /再生する青プロジェクト」 

2020.11.23 column

名古屋のミッドランドスクエアに展示されているfactory zoomer制作のクリスマスツリーについて報告させていただきます。
私は今年の4月からズーマの工房にてホットワークとコールドワークをしている松本尚実です。制作の始めから、最後の名古屋でのクリスマスツリー設営まで立ち会わせていただき、この仕事について自分で見てきたことや感じたことを書いてみます。

11月11日から、名古屋のミッドランドスクエアにて始まっている「reclaimed blue/再生する青」のクリスマスインスタレーションに参加させていただきました。昨年12月にも「reclaimed blue/再生する青」の展覧会をさせていただいたgallery NAO MASAKIの正木なおさんから依頼を受けたプロジェクトです。毎年国内外のアーティストを起用し、独創的なクリスマスインスタレーションを展開されており、今年も12月25日まで展示されています。場所は商業棟1F西側メインエントランスになります。高さおよそ5メートルにも及ぶブルーのグラデーションが美しいクリスマスツリー。
高い天井から「MIDLAND CHRISTMAS 2020 Daily Life –reclaimed blue 2020-」と書かれた大きなネイビーブルーのバナーがかけられており、館内の各ショップにもブルーの商品が並べられたりと、所々にブルーで彩られた大人のクリスマスの世界感が演出されております。

正木なおさんディレクションで辻の「reclaimed blue/再生する青」を使ったクリスマスツリーの制作が決まったのは夏前の緊急事態宣言後の、コロナ禍で世の中がざわめいている最中でした。
「reclaimed blue/再生する青」については柳田(販売部)のコラムでも書きましたが、一年に一度、夏に工房の制作の中で出来た切れ端や失敗作を一度に熔かすことにより美しい青色のガラスが生まれ、そのガラスで新たな作品を制作し、マイナスのイメージだったものを新たな作品として蘇らせる作品です。今年の夏のブルーはニューヨークの展覧会のために予定が組まれていましたが、コロナの影響で海外での展示がなくなり、ぽっかりと空いたブルー制作の予定に、滑り込むようにしてツリーの計画が入ってきました。
点灯までの4ヶ月あまり、思い返すと、ずっと手探りの状態でツリーの制作は進んでいったように思います。

まず、どのような形のガラスをツリーのオーナメントにするのか...
使う人の暮らしに寄り添うものを日々制作しているfactory zoomerのクリスマスツリーは展示後も作品を楽しめるよう、オーナメントの一つ一つをお家に持ち帰ることができ、器やインテリアとして使えるようにしたい...
今回は吊り下がる形状で、日常で使えるもの...ということで、穴の空いているプレートの形になりました。
クリスマスツリーは円錐状なので、上から下にかけてプレートのサイズを大きくしていき、奥行きを感じられるようなデザインになりました。
一番小さなサイズは10センチ、その後は2センチずつ大きくなりツリー下部の一番大きなサイズは30センチにもなります。30センチは器になると、とても大ぶりなサイズになります。
また、全てのプレートが同じ色味だと、単一な印象になるので、いろんなブルーの色味を取り混ぜて、華やかな印象になるようにと、制作時に色味を3段階に分けるよう考えられました。
ブルーは熔かすガラス破片の濃さによって、ブルーの色味が変化します。
黒いパウダーをたっぷり使ったものを熔かすと、濃いブルーに。
カラーの作品や、色味の薄いものを熔かすと、薄いブルーに。
それらを混ぜて熔かすと、濃いものと薄いものの中間のようなブルーに。


形が決まると、ズーマのギャファーである加倉井秀昭さんの指導を受け、ブルーを熔かしている1ヶ月半という短い期間でおよそ500枚のプレートを吹きガラスで作り上げました。


このプレートのポイントはツリーにつり下げられるように開けられた、吹きガラスでの技法の制作の中できる柔らかな形の穴にあります。
吹き上げた後にコールドワークで穴を作ろうと思うと、どうしてもガラスの削れたようなかたい質感になります。
そこで吹きガラスの制作過程の中で、まだポンテをとっていない空気の入る状態の時に膨らませたガラスの一部分を高温の熱で柔らかくし、ブローパイプから息を入れることにより柔らかくなった部分のガラスをはじけさせて穴を開けるというやり方で作っていくことになりました。
このようにして穴をつくると、吹きガラスのその後の過程で何度も熱が加えられることにより、ガラスの遠心力によって広がってひとつとして同じものがない温かみのある形のプレートに仕上がります。
吹きガラスでのプレート制作はとてもスピードが早く、どんどん出来上がるプレートを色別で保管していきました。
吹き上げ後、加工の作業に入ります。
展示後に食器としても使えることが大切なので、まずはプレートの底を平らに荒削りし、その後の磨きは何工程もかけて仕上げます。
プレート10枚を磨き上げるのに丸一日かかってしまうことも...
ただのオーナメントだと、吹き上げたままの状態でも良いのですが、心地よく使えるような器になるにはとても手間がかかります。


8月中頃になると、辻の描いたイラストによって全体像が見えてきて、状況がめまぐるしく動いていきました。

ツリーの枝のドローイング



模型の制作


幹の模型にドローイングを切り抜いた枝の模型を取り付け、全体像を見てみるなど…

富山県にある金属加工の三建工業の方によって辻のドローイングした木の枝のデザイン通りに鉄の板がカットされ、愛知県にあるアイチ金属さんによってガラスや鉄の枝などの重量に耐えうる幹やそれらを支える土台が制作されました。
その他、ツリーを照らす照明のことを考えたり、ツリーに合わせたバナーを考えるなど、様々な分野の会社のたくさんの人が関わることを知り、このプロジェクトの大きさを改めて実感しました。

ツリー点灯1ヶ月前、加倉井さんによって青い鳥やいろいろな器の形をしたオブジェの制作が始まり、プレートの磨きの作業も火を吹く勢いで進められていきました。

トップを飾る青い鳥の制作風景
オブジェは全て手磨きで仕上げをします

ツリー点灯1週間前には、三建工業さんの建物の一部の場所をお借りして、ツリーの仮設営を行いました。
仮設営での目的は、設営当日にスムーズにガラスの取り付けが出来るよう、あらかじめ全体像を決めておくことでした。
これまでに仕上げたツリーに下がる全てのプレートを床一面に色別で並べると、圧巻の景色が広がりました。


辻が、並べたプレートから一枚ずつ手に取り、色味を考えながら枝にかけていきます。


かけては全体を見て、濃いものが重なって色味が重くなっていないかなどの調整をして、またかけて、、この時間が一番難しいところだったようです。
余談ですが、私はプレートの制作中の数の管理を担当しており、普段の制作の仕事に比べて今回のクリスマスツリーの仕事は最終的にツリーに吊り下がるプレートの数がとても多く、サイズや色味別で出来上がったプレートの数を管理することにとても苦労しました。
毎日磨き加工をして増えていくプレートは、なぜか数え直すと、昨日まであった数とその日磨いた分の数を足した数とのズレが生じていたり...
仕事後の自分の疲れた頭を信じてはいけないと痛感いたしました。


そして設営当日、ミッドランドスクエアの営業時間が過ぎた深夜から作業は始まりました。
アイチ金属さんによって塗装された幹が運ばれてきて、1日目はガラスの取り付けはせず、幹の組み立て作業のみでした。
溶接によりしっかりと幹につけられた枝は、人が乗っても折れない丈夫さを持っています。

2日目、いよいよツリーの一番上部からガラスの取り付けが始まりました。
まずはトップを飾る青い鳥のオブジェから。
クリスマスツリーの一番高い所はおよそ5メートル、見たこともない大きな梯子に登り、慎重に鳥のオブジェを取り付けます。
その後、梯子と枝に足をかけながら、仮設営で決めた配置の通りに枝の表と裏にプレートをどんどんつり下げていきました。(足元がとても不安定で自分もガラスも落ちないかとヒヤヒヤしました、、)
この日は3分の2まで取り付けが完了しました。
3日目、早めの時間から取り付け作業を始め、オブジェの位置を調整しつつ、下部の残りの大きなプレートとオブジェをどんどんつり下げていきます。
そして、いよいよ辻が最後のプレートの一枚を取り付けたとき、周りにいた正木さん、アイチ金属の方、照明の方たちから拍手が起こり、みんなでクリスマスツリーのガラス部の完成を祝福した瞬間が、今でも忘れられません。

その後は照明の方によるライティング、アイチ金属さんによって土台の植木鉢の設置が行われ、ついにクリスマスツリーが完成しました。
あらためて出来上がったツリーを見ると、制作時の大変だったことなどは吹き飛び、達成感とただただ綺麗なものを見たときの感動で心が満たされました。

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再生する青―コロナ禍の中で生まれたいろんな思いも、美しいものに生まれ変わりますように。
そして人々の元へと届き、ずっと心を灯せますように。
ぜひ、名古屋にてこのクリスマスツリーをご覧になっていただきたいと思います。
プレートの中にいろんな器や青い鳥が散りばめられたクリスマスツリー、お気に入りの形やかわいい鳥を探してみてください。

12月5日からは、gallery NAO MASAKIでいろんな作家さんが集まる「BULE×BULE」展が始まります。
どうぞ合わせてご覧ください。

(文責:松本尚実)

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