対談「life」を探しての3回目。今回の相手はエレガントでありつつ働きやすいと評判の制服を手掛けるDoIの川上直子さん。人気の作品が生まれた経緯や込めた思い、今後の展開などについて自身も洋服好きの辻和美が聞きました。
(Tは辻、Kは川上、対談は2024年5月、factory zoomer /lifeで行った。文と写真・鈴木弘)
T:factory zoomer(ズーマ)では2021年6月以来、2回目の展覧会になります。前回は新型コロナの真っ只中でした。もう3年も前になるんですね。
K:ちょうど芍薬の花がぎりぎり終わりそうな時期でした。
T:そうそう。会場にピンクの芍薬を飾ってほしい、って言われて必死に探しましたよ。
K:ズーマをイメージした時、ピンクが思い浮かんだんです。ポップな原色のピンク。コロナ禍で鬱々としていたせいもあって明るい色を選んだのかもしれません。
T:うちの制服を三色の濃淡ピンクで作ってくれましたね。すごく好評でした。今はDoIと言えば、いろんなお店のユニフォーム(制服)を作っているブランドというイメージがあります。
K:制服にこだわっているつもりは全くないのですが、固まってきたのは、辻さんが8年くらい前に新しいギャラリーを開くときに依頼をいただいたのがきっかけみたいなものなんですよ。それから、確かに依頼も多いんですが、全く知らない人に対しては、イメージがわかなくて作れないから、申し訳ないけどお断りしてるんです。
T:じゃあ、そのギャラリーのオーナーと面識があったり、活動を知っている場合に制服(働衣)をデザインするってことですね。以前に同じ熊本在住の料理家の細川亜衣さんのエプロンを作ってらっしゃいましたよね? 制服にはこだわってなかったって言うけど、くるみの木のほかに料理家の渡辺有子さんとか、和菓子のここのつさん(東京)とか、そのお店のモデルになる服を作ってますよね。
K:まあ、そうです。でも実は、制服はすごく難しいんです。幅が広くて。男性と女性が同じものってわけにはいかないし、コストという制約もあるし。
T:それが逆に良かったんじゃないですか? 制約の中で精一杯、考えて考えて。みんなが着たいものを短い時間で作り上げていると思うけど。
K:辻さん、巨匠のことはある程度知ってたから作りやすかった。
T:恥ずかしいけど私のことを「ミューズ(女神)」って言ってた。その場所のミューズたちに向けて作るって。
K:やっぱり相手の顔を見ないと作れない。でも最近は代表者を見ないで作ることも多くなってきて戸惑ってます。知ってたらすごく速いんだけど。
T:うん、なんか分かる気がする。
K:でもね、今は、制服を作りたいわけじゃないんだけどなあ。
T:もともとそうではなくて、流れで作っていたってこと? もしかしたら「制服」っていう名前の問題かな。「コスチューム」も違うか。あっ「働衣」って付けてるじゃない。忘れていた。ブランド名ではないですか! 実際、今の川上さんをつくったのは制服(働衣)でしょ。作らないわけにはいかないよね。これからも。違うことやるなら、別ブランドつくってしまうとかね。
K:まあ確かに。三重のVISON(ヴィソン)のKATACHI museum(カタチミュージアム)とか、東京の新しい茶寮のとかもやってるど、制服やるつもりじゃなかったから苦しいところがある。
T:みんな川上さんに任せると素敵なものができるって知ってるんですよ。だから私たちもまた新しいお店も川上さん、先生に作ってもらいたいとお願いしました。ただカッコよくても締め付けられるのはしんどいでしょ、働く時に。川上さんが作る制服は何しろ着やすいの。肩の辺りが広かったり、中に服を着ていても楽だったり、その中の服を少し見せて着ることもできるし。よく考えられてると思う。
K:もちろん体の動きに合わせてアームホールを作るし、脚捌きがいいようにスリットやベンツを入れたりするし、着てカサカサしない、肌に優しいことも大切です。洗濯に強い布や縫製も考えます。自分がイメージしたように着てもらえないとデザインが悪かったのかなと反省したりもします。
T:では、制服の他には何を作ってるの?
K:ブランド名は、働く服なので働く衣と書いて「働衣(どうい)」なんだけど、普通のエプロンじゃなくて「ハレの日に着るエプロン」っていうコンセプトで、お客さまを迎える時の”見せエプロン”を作っている感じ。主婦は毎日が仕事だから、少しでも気持ちのいい服を着てると気分がいいじゃないですか。誰でも作れるものじゃなくて、なるべくキレイな美しいエプロンを、と思いながら作ってます。
T:エプロンって参入しやすそうで、競争が激しそう。
K:自分が第一人者だなんて思ってないけど、作る人は増えてますよ。安い値段のものも。ただきちんとしたものを作って、縫製さんにもちゃんとした金額を払うとなると、一着が4万とか5万とかどうしてもそれなりの値段になってしまうんです。悩みどころです。
T:今後はどんな仕事がしたいの?
K:それが見えなくて困ってるんですよ、今。「これから」って言われても困る。
T:でも何か考えてるんでしょ。
K:うーん。制服はどんどん増えて、モデルができてきた。できればDoIじゃない別のブランドを立ち上げたいかな。
T:さっきの話になるね。
K:好きな人のために作っていた制服が今は独り歩きしてる感じ。
T:あーそんな感じなんですね。少し分かります。別ブランドで何をやりたいってイメージはあるの?
K:作りたいものはあるんだけどお金かかるし、っていうジレンマがいつもあります。一つの布をオリジナルで作ろうとすると500メートル単位になるんですね。そうすると同じ形を何百着も作ることになる。一つの形でせいぜい5枚とか10枚で売り切って次に行きたいのに、それができない。
T:自分で布を織っちゃうとか。
K:貴重な布を作ると、今度はハサミを入れられなくなる。そのまま使うと民族衣装みたいになっちゃう。だから堂々巡りで困ってるんです。実は、最後はドレスとか、一つ何百万もするものを作ってみたいんですよ。ヨーロッパにも出てみたいし。
T:うんうん、なんか取っ掛かりあるといいね。
T:最後に、うちで展覧会をしていただく方みなさんに聞いていますが、「life」という言葉から何かお話しいただけませんか?
K:エプロンを作ってる時点で既に「life」です。生活の中に取り入れたい、衣食住の一部として存在するものを作りたいと思ってます。
T:あっ、シンプルに終わってしまった・・・。
K:お店の名前は辻さんらしい。
T:まあベタだけど、私はストレート。カーブは投げられないからね。
K:モノづくりってすごく苦しくて孤独。この世で自分一人かもしれないと思う時がある。考えれば考えるほど変な方向に向かうこともあるし。
T:作り手は人生そのものを作品に投げ込んでるからね。自分がやってきたことの上にしか立てないんだから、周りを気にしすぎることないよ。悩んでないで、さっさと次に行こう!
川上直子(かわかみ・なおこ)熊本市出身・在住。デザイナー・作家。DoI(働衣、ドーイ)を主宰し、働きやすくエレガントな制服を制作。各地のショップに提供する一方、展覧会で作品を発表している。
ー編集後記ー
お互いを「きょしょう」「せんせ」と呼び合う二人。働くための服をめぐる話は、あちこち飛んだりぐるぐる回ったり。フランクなやりとりの中にモノづくりに真摯に取り組むからこその葛藤と共感を垣間見た気がします。(鈴木)
77th exhibition
DoI
2024.06.28 fri. — 07.28 sun.
6/28(金) 29(土) 展覧会に合わせ、chanowa 茶会 さ ら さ ら を開催いたします。
※満席となりました。ご予約ありがとうございました。