factoryzoomer

対談:lifeを探して④ 挑戦続く「再生の青」

2024.07.28 interview

8月からの展覧会はfactory zoomerの定番となった「reclaimed blue」展。対談「life」を探しての4回目は、廃ガラスから生まれる「再生の青」について辻和美が語ります。聞き手はズーマの工房長を務める島元かおりです。
(Tは辻、Sは島元、対談は2024年7月、factory zoomerの工房事務所で行った。文と写真・鈴木弘)


S:そもそもreclaimed blue(リクレイムドブルー、再生の青)ってどんな風に始まったんですか。生まれたきっかけを教えてください。
T:きっかけは、もう10年以上前、確か2011年だったかな。自分の作品がフリーマーケットで売られているのを見たのね。なんだかショックだったなー。もう、いらなくなったんだなって。まあ物を生み出して販売している者として、物は消費されていくし、流行もあるし、その宿命はある程度理解していたつもりだけど、でも気分が悪かったなー。それがきっかけで、お家でご不要になった作品を工房に戻してください、もういちど溶かし直して新しい作品に再生しますっていうプロジェクトを始めたわけ。それが一番最初。


S:その不要作品返却プロジェクトはどうなりました?
T:実際にいらなくなったって作品を送り返してきた人は今のところ、一人もいない(笑)。まあ、かなり廃棄用の失敗作がたまっていたから、溶解炉でそれを溶かしてみた。うちの作品は割と黒いガラスが多いから、溶かし直したらグレーになるのかなと思ってたらブルーが出てきたのね。黒が多いから藍のような綺麗な濃い青。思った以上に美しかったですね。
S:そうした作品の再生は他の工房でもやっていたんですか?
T:沖縄のガラス工房は米軍基地から出るコーラやビールの瓶を溶かし直して琉球ガラスを作っているし、金沢の卯辰山工芸工房の先輩でやってる作家もいた。ただ自分の作品を回収して再生しようというのは聞いたことがないかもしれない。あと、ブルーをわざわざ強調したのもうちが初めてだと思う。


S:もう13年も経つんですね。この間で何か変わりましたか。
T:工房で出る廃材を黒、透明、色ガラスと大きく3色に分けて保管すると、1年で大体みかん箱サイズのプラスチックケース20箱から30箱分貯まるでしょ。溶かし直す時、黒を多く使うと濃紺になって、他の色物を使うと淡いソーダ色になる。青でも色んなトーンが出せるようになって面白くなってきたよね。最初は偶然できた色だったけど、今はかなり意図的に作れるようになったよね。毎年夏、炉の中の坩堝替えする1ヶ月前ぐらいから廃材を投入して、1年分の廃材を溶かすと気分もスッキリする。


S:私が入社した10年ぐらい前は青もフォルム、形で見せていたように思います。その後、柄やカットが増えましたか?
T:カットを意図的に増やしたつもりはないかな。もともとあったスタンダードシリーズのカットを再生ガラスの青で置き換えてみたのよ。最初はロックグラスの「花」を作ってみた。濃いガラスにカットを入れることで一つのグラスの中に濃淡が生まれて、綺麗な模様が浮き出てくるのが分かって、ちょっと得した気分だった。


S:再生って古くて新しいテーマというか。
T:今の時代はSDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)って声高に言うけど、再生の青はガラスという素材だからできること。工房には溶解できる設備があるしね。リサイクルだから偉いんじゃなくて、廃材を原料として普段より尊いもの、人を驚かせるものを作りたいわけ。何でできてるんですかって聞かれたとき、1年間ためたゴミから生まれましたって説明するの楽しくない?


S:今回の展覧会でのチャレンジは。
T:韓国・李朝の形が好きでこれまでも写しを作ってるけど、今回も李朝の形をメインに据えます。ただ現代人が李朝をまねると意図が表に出過ぎてしまう。韓国の当時の職人は表現うんぬんじゃなくて作ってるから作為を感じさせない美しさがある。そこを踏まえた上で作りたい。上と下が合う大きなものや蓋をしたら球形になるものとか、島元さんには難しいことをお願いしてます。陶芸でやってることをガラスでやるんだから無理があるのは分かってるけどね。モチーフとして花を描くことは続けたい。濃紺のブルーは向こうが見えない分、形がはっきりするから息を吹き込んでできる物としての美しさを出せたらと思う。


S:ブルーの季節は緊張します。どんな新しい形、難しいお題が出てくるのか身構えます。課題をこなすのは楽しいですけど。今回はまた新しい植物のカット作品がありますが、以前のシリーズより、繊細な涼やかさが出ているような気がします。
T:少し大人びた雰囲気だよね。カットの技術で筆で描いたような滑らかな線で軽やかさを出してください。


S:ブルーには色んな可能性がありますね。
T:色の濃淡をコントロールできるようになったのが大きいね。
S:ガラスの色を透明からブルーに変え、吹き終わると今度は坩堝自体を替える。うちの工房にとって、いわば一年の終わりで始まり。この時期は大変だけど一番楽しいかも。
T:あと、今度の展覧会では「リライフ」という作品を2点出すよ。箱の片方に黒のスタンダードの作品、もう片方にブルーの作品を入れて、対比できるように並べる。使用前・使用後みたいな感じで、reclaimed blueが一目で分かるようにね。



島元かおり(しまもと・かおり)1991年生まれ。群馬県出身。2014年に長岡造形大学美術工芸学科を卒業し、factory zoomer入社。柄のカットや研磨を行うコールドワークを担当、作品の完成度や工房全体の制作スケジュールも管理する。


ー編集後記ー
島元さんはキャリア10年にしてズーマを仕切る制作の要。初めての師弟対談はボスが右腕に工房と作品の来歴を語る格好で、代表的なシリーズとなった「再生の青」の誕生秘話から現在までの展開をたどってくれました。(鈴木)



78th exhibition

reclaimed blue

2024.08.02 fri. — 09.15 sun.


8/2(金)12:00~ 3(土)14:00までのご来店は、事前ご予約制とさせて頂きます。
※ご予約受付は終了いたしました。



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