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interview

対談:lifeを探して「未来のアンティーク」

2024.04.4 interview

factory zoomer /lifeのオープンを機に、展覧会開催予定の作家を、オーナーの辻和美が訪ね語り合います。対談のテーマは新店舗の名前に掲げた「life」。初回の相手は4月にギャラリーの幕開けを飾るkrank(クランク)の藤井健一郎さん。「life」を探す旅の始まりは福岡からです。
(Tは辻、Fは藤井、対談は2024年3月、クランクで行った。文と写真・鈴木弘)


T:factory zoomer /lifeで最初の展覧会は絶対、藤井さんにお願いしようと決めていました。藤井さんは、見る人をワクワクさせるのが上手だから。最初、お洋服をメインで販売されていた時も、徹夜でディスプレイして、次の日に来るお客さんをびっくりさせるのが楽しみだったと話してましたよね。
F:はい、ほんと、それはすごい考えてました。
T:金沢の新しいギャラリーはプレーンな白い箱、かなりホワイトキューブなんで、やっぱり展覧会を行っていただく方に”魔法の杖”を振ってもらおうと思ってます。実はそれを頼りにしています!



T:さて、新しい場所の名前なんですが、英語の「life」ってちょっと重たい言葉かもしれないけど、「命」や「生活」、「人間」や「人生」「寿命」のほかに「時代」、「活力」、「大切な人」、「いきがい」、「パーティーを盛り上げる人」なんていう意味もあります。この中から気になるものを選んで、それをキーワードに話をしてもらいたいんです。作家さんと一緒に「life」を探す旅です。
F:そんなに色んな意味があるなんて知りませんでした。この中からパッと浮かぶのは「大切なもの、人」かな。お客さんに楽しんでもらいたいとお店をやってるわけですが、実は僕の中ではまず自分の母親を喜ばせたいという思いがあるんです。自慢の息子というか、誇りに思ってもらえたらいいなと。それはお店を始めた頃からずっとありますね。
T:えー、ちょっと意外でした。小さい頃はスポーツができないとか髪がチリチリとかでコンプレックスの塊だったと何かのインタビューで読みましたが。
F:弟が親の期待に応える子だったのに対して僕は対照的で、勉強も運動もできなくて学校もろくに行ってなかったのに、母は最後の最後までずーっと味方してくれました。若い時はそうでもなかったんだけど、歳をとるにつれてそれが徐々に胸に染みてきて、今はそんな風に思うようになりました。
T:けんかとかしないの?
F:今はしません。母親の生き方はパーフェクト、人として素晴らしい。空気をよく読んでみんながなるべくポジティブになるように考える人で、僕がどんなに悪いことをしても悪く言わなかったし、見捨てなかった。
T:じゃあお母さんの存在は今の制作とか物の選び方に影響してる?
F:それは間違いないです。実家は英会話教室で母は英語の先生でした。母は不良でも真面目な子でも、子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで、男の人でも女の人でも、平等に接するんですね。それを小さい頃からずっと見てた。僕たちがやってることも近いところがあって、若い子たちだけ分かればいいとは思ってないし、おじいちゃんが来ても外国の人が来ても「わー」って驚いてもらいたい。




T:まさにボーダーレスですね。私は価値観の決めつけが嫌で、色んな価値観を色んな人に見てもらいたい。そう思って作家さんを選んでます。だから既成概念を壊すクランクさんに展覧会をお願いしました。転がっていた動物(の置物)や枯れた花に目をとめて、みんながもういいやと思ったものをもう一度違う舞台に乗せる仕事をしている人は少ないと思います。そういう方々を紹介していく仕事をしたいです。
F:ヨーロッパでゴミみたいな扱いで置かれていた動物を持って帰って仕上げて、それが作品になって展覧会のDMにまでなって表舞台にもう一回出ていく。そもそもアンティークってそういう作業で、僕らはそんな仕事が好きなんだと思います。
T:以前話してくれた「未来のアンティークを作る」っていう言葉もよく覚えてます。
F:未来の人たちが骨董市で見かけたときどんな顔をするかなと想像するとすごく面白くて。別に自分の名前は残らなくていいんだけど、「この鳥がとまってる椅子ちょくちょく見るよね」なんて話したりしてね。



T:ここ数年、動物の作品が多いですよね。それはどうして?
F:本格的に取り入れるようになったのは7年ほど前からです。昔は展覧会も家具でやってました。アンティークはあくまでアンティークだから、もう一つ別の世界に行ってみたいなって。家に自分が本当に好きなものを置くとしたら鳥がとまってる椅子があったら僕は嬉しいなって思って、ディスプレイ用に作って飾っていたら、欲しいという人が現れた感じです。
T:今は、大人気で、あれば、みんな欲しがります。あと、ドライフラワーも使ってますよね。
F:植物は異素材だからストーリー、物語を作りやすいというか、自分たちの変装道具の一つみたい。それでたまに使う時があるんです。ドライフラワーのお店にしたいわけじゃないけれども、自分たちに絶対必要なものではあるかな。
T:ちょっとした衣装みたいなもの?
F:例えばマフラーを巻いたら服が決まるような。そういうパーツとしてある。
T:で次、こんなことやってみたいというアイディアは浮かんでいますか?
F:実はもう動いてるんだけど、まだできてないものがあって。僕はもともと音楽をやっていて、自分が本当にやりたいことは何か考えたら、究極はやっぱりアンティークと音楽のミッスクなのかな。どういう形になるかまだ分からないけど、次に何か新しいものをやるならそれだと思ってます。
T:具体的にはいつ頃?
F:今年中は無理だろうから、年明けごろにはちょっとでも見せられたらいいなと。
T:それはやっぱりモノとして形になるわけ?
F:動物のランプとかフラワーベースとか作ってるわけですけど、僕らって作家とプロダクトの間をやってるんですよ。自分はアーティストじゃなくて、あくまで家具屋だと思ってるんです。そこは踏み違えないようにしてます。作品としての価値が上がるというよりも、インテリアとしてみんなの中に入っていってほしい。インテリアです。
T:すでに表現者なのに。
F:ずっと家具屋できたから急にアーティストぶるのはこっぱずかしい、照れる。




T:それで金沢では、どんなことを考えてくれているのかな?
F:これで4回目の個展ですが、このタイミングでやる意味を考えないと。今、石川県に行くなら1月の能登半島地震をスルーすることはできないでしょう。助け合いと言うと大袈裟だけど、何か連鎖するとか、繋がるといったようなことをテーマにできないか考えています。見た人の気持ちが上がるようなものができたら嬉しいですね。
T:それは嬉しいです。金沢でも能登ほどではないけど、何かしら被害を受けた方々がいます。あと、少し気持ちが落ちていたりしているかもしれないです。このギャラリーも実際のオープンを4月にしたのも、人の気持ちが少し前を向く感じに変化してくる頃を待ちました。Krankさんたちの展覧会がさらに、それを後押しするようなものになると信じています。新しい場所にどんな魔法をかけてくれるか、とても楽しみです。




藤井健一郎(ふじい・けんいちろう) 福岡県出身。音楽学校を卒業後、音楽活動を続けながら福岡市内に2002年、洋服や雑貨のセレクトショップmarcello(マルチェロ)を設立。04年にヨーロッパのアンティーク家具を扱うkrankを設立し、全国各地で個展を開催。10年には株式会社sleepを立ち上げ、作品制作、空間プロデュース、舞台演出のほか音源制作も行なっている。

●旅のお土産情報:今回はB級グルメ
2日間の福岡滞在で焼きそば専門店「バソキ屋」、五島さばと五島うしが売り物の串焼享楽、博多駅近くの人気パン店ダコメッカ、地元で愛される糸島市の長浜ラーメン力(りき)、因幡うどん福岡空港店と粉もん攻め。カリッと焼いた麺が特徴の焼きそば、新鮮なサバの刺身をごまたっぷりの醤油ダレで頂くごまサバなど九州の味を満喫。ほかにお取り扱い店舗MORE LIGHT、LIGHT YEARSや、シルクロード展を見に福岡アジア美術館などに行ってきたよ。

-編集後記-
ヴィンテージの作業着を思わせる独特の風合いが魅力の英国ブランドを着こなす藤井さんは、笑顔のチャーミングな九州男児。光と影を効果的に使ったおとぎ話の世界のような空間作りの背景には、アンティークの本質と未来を見据える視点がありました。古いものに命を吹き込み次代につなぐ。愛とユーモアに溢れた作品は心優しい魔法使いからの贈り物のようです。(鈴木)

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