factoryzoomer

interview

対談:lifeを探して③「美しき労働着」

2024.06.23 interview

対談「life」を探しての3回目。今回の相手はエレガントでありつつ働きやすいと評判の制服を手掛けるDoIの川上直子さん。人気の作品が生まれた経緯や込めた思い、今後の展開などについて自身も洋服好きの辻和美が聞きました。
(Tは辻、Kは川上、対談は2024年5月、factory zoomer /lifeで行った。文と写真・鈴木弘)



T:factory zoomer(ズーマ)では2021年6月以来、2回目の展覧会になります。前回は新型コロナの真っ只中でした。もう3年も前になるんですね。
K:ちょうど芍薬の花がぎりぎり終わりそうな時期でした。
T:そうそう。会場にピンクの芍薬を飾ってほしい、って言われて必死に探しましたよ。
K:ズーマをイメージした時、ピンクが思い浮かんだんです。ポップな原色のピンク。コロナ禍で鬱々としていたせいもあって明るい色を選んだのかもしれません。
T:うちの制服を三色の濃淡ピンクで作ってくれましたね。すごく好評でした。今はDoIと言えば、いろんなお店のユニフォーム(制服)を作っているブランドというイメージがあります。


K:制服にこだわっているつもりは全くないのですが、固まってきたのは、辻さんが8年くらい前に新しいギャラリーを開くときに依頼をいただいたのがきっかけみたいなものなんですよ。それから、確かに依頼も多いんですが、全く知らない人に対しては、イメージがわかなくて作れないから、申し訳ないけどお断りしてるんです。
T:じゃあ、そのギャラリーのオーナーと面識があったり、活動を知っている場合に制服(働衣)をデザインするってことですね。以前に同じ熊本在住の料理家の細川亜衣さんのエプロンを作ってらっしゃいましたよね? 制服にはこだわってなかったって言うけど、くるみの木のほかに料理家の渡辺有子さんとか、和菓子のここのつさん(東京)とか、そのお店のモデルになる服を作ってますよね。
K:まあ、そうです。でも実は、制服はすごく難しいんです。幅が広くて。男性と女性が同じものってわけにはいかないし、コストという制約もあるし。
T:それが逆に良かったんじゃないですか? 制約の中で精一杯、考えて考えて。みんなが着たいものを短い時間で作り上げていると思うけど。
K:辻さん、巨匠のことはある程度知ってたから作りやすかった。
T:恥ずかしいけど私のことを「ミューズ(女神)」って言ってた。その場所のミューズたちに向けて作るって。
K:やっぱり相手の顔を見ないと作れない。でも最近は代表者を見ないで作ることも多くなってきて戸惑ってます。知ってたらすごく速いんだけど。
T:うん、なんか分かる気がする。


K:でもね、今は、制服を作りたいわけじゃないんだけどなあ。
T:もともとそうではなくて、流れで作っていたってこと? もしかしたら「制服」っていう名前の問題かな。「コスチューム」も違うか。あっ「働衣」って付けてるじゃない。忘れていた。ブランド名ではないですか! 実際、今の川上さんをつくったのは制服(働衣)でしょ。作らないわけにはいかないよね。これからも。違うことやるなら、別ブランドつくってしまうとかね。
K:まあ確かに。三重のVISON(ヴィソン)のKATACHI museum(カタチミュージアム)とか、東京の新しい茶寮のとかもやってるど、制服やるつもりじゃなかったから苦しいところがある。
T:みんな川上さんに任せると素敵なものができるって知ってるんですよ。だから私たちもまた新しいお店も川上さん、先生に作ってもらいたいとお願いしました。ただカッコよくても締め付けられるのはしんどいでしょ、働く時に。川上さんが作る制服は何しろ着やすいの。肩の辺りが広かったり、中に服を着ていても楽だったり、その中の服を少し見せて着ることもできるし。よく考えられてると思う。
K:もちろん体の動きに合わせてアームホールを作るし、脚捌きがいいようにスリットやベンツを入れたりするし、着てカサカサしない、肌に優しいことも大切です。洗濯に強い布や縫製も考えます。自分がイメージしたように着てもらえないとデザインが悪かったのかなと反省したりもします。


T:では、制服の他には何を作ってるの?
K:ブランド名は、働く服なので働く衣と書いて「働衣(どうい)」なんだけど、普通のエプロンじゃなくて「ハレの日に着るエプロン」っていうコンセプトで、お客さまを迎える時の”見せエプロン”を作っている感じ。主婦は毎日が仕事だから、少しでも気持ちのいい服を着てると気分がいいじゃないですか。誰でも作れるものじゃなくて、なるべくキレイな美しいエプロンを、と思いながら作ってます。
T:エプロンって参入しやすそうで、競争が激しそう。
K:自分が第一人者だなんて思ってないけど、作る人は増えてますよ。安い値段のものも。ただきちんとしたものを作って、縫製さんにもちゃんとした金額を払うとなると、一着が4万とか5万とかどうしてもそれなりの値段になってしまうんです。悩みどころです。


T:今後はどんな仕事がしたいの?
K:それが見えなくて困ってるんですよ、今。「これから」って言われても困る。
T:でも何か考えてるんでしょ。
K:うーん。制服はどんどん増えて、モデルができてきた。できればDoIじゃない別のブランドを立ち上げたいかな。
T:さっきの話になるね。
K:好きな人のために作っていた制服が今は独り歩きしてる感じ。
T:あーそんな感じなんですね。少し分かります。別ブランドで何をやりたいってイメージはあるの?
K:作りたいものはあるんだけどお金かかるし、っていうジレンマがいつもあります。一つの布をオリジナルで作ろうとすると500メートル単位になるんですね。そうすると同じ形を何百着も作ることになる。一つの形でせいぜい5枚とか10枚で売り切って次に行きたいのに、それができない。
T:自分で布を織っちゃうとか。
K:貴重な布を作ると、今度はハサミを入れられなくなる。そのまま使うと民族衣装みたいになっちゃう。だから堂々巡りで困ってるんです。実は、最後はドレスとか、一つ何百万もするものを作ってみたいんですよ。ヨーロッパにも出てみたいし。
T:うんうん、なんか取っ掛かりあるといいね。


T:最後に、うちで展覧会をしていただく方みなさんに聞いていますが、「life」という言葉から何かお話しいただけませんか?
K:エプロンを作ってる時点で既に「life」です。生活の中に取り入れたい、衣食住の一部として存在するものを作りたいと思ってます。
T:あっ、シンプルに終わってしまった・・・。
K:お店の名前は辻さんらしい。
T:まあベタだけど、私はストレート。カーブは投げられないからね。
K:モノづくりってすごく苦しくて孤独。この世で自分一人かもしれないと思う時がある。考えれば考えるほど変な方向に向かうこともあるし。
T:作り手は人生そのものを作品に投げ込んでるからね。自分がやってきたことの上にしか立てないんだから、周りを気にしすぎることないよ。悩んでないで、さっさと次に行こう!



川上直子(かわかみ・なおこ)熊本市出身・在住。デザイナー・作家。DoI(働衣、ドーイ)を主宰し、働きやすくエレガントな制服を制作。各地のショップに提供する一方、展覧会で作品を発表している。



ー編集後記ー
お互いを「きょしょう」「せんせ」と呼び合う二人。働くための服をめぐる話は、あちこち飛んだりぐるぐる回ったり。フランクなやりとりの中にモノづくりに真摯に取り組むからこその葛藤と共感を垣間見た気がします。(鈴木)


77th exhibition

DoI

2024.06.28 fri. — 07.28 sun.


6/28(金) 29(土) 展覧会に合わせ、chanowa 茶会 さ ら さ ら を開催いたします。
※満席となりました。ご予約ありがとうございました。

対談:lifeを探して②「人と人を繋ぐお茶」

2024.05.19 interview

「life」を探す対談の2回目。相手は中国茶稽古「月乃音」を主宰する渡邊乃月さんです。金沢での稽古で中国茶を習い、近年は中国茶用の器も手がける辻和美が、渡邊さんから改めて中国茶との出会いや魅力、その広がりについて聞きました。
(T:辻和美、W:渡邊乃月、対談は2023年末、factory zoomer /shop・temporaryで行った。文・鈴木弘)




T:乃月先生と中国茶との出会いはいつですか?
W:学生のころアフタヌーンティーのティールームでアルバイトをしたのがお茶の始まりです。イギリスの紅茶文化をベースにした紅茶専門店で、ティーカップやスプーン等の茶器の美しさ、また家具などインテリアを含め生活の楽しみやライフスタイルを提案する豊かさに惹かれました。
T:最初は紅茶だったんですね。
W:学校を卒業した後アフタヌーンティーの母体の会社に就職して、神戸店に勤めました。紅茶の周りには人と人の間に温度が宿る、常に何か温かい幸福感を感じていました。実に楽しかったです。しかしその後に阪神淡路大震災で被災をし、この先の命の使い方を考え直すことになりました。自分の国のお茶のことを知らないことに唖然として、お抹茶やお煎茶も学んでみようと。会社を退職して日本茶の歴史を学ぶうち、ルーツの中国茶に行き着きました。



T:中国茶の勉強はどうやってされましたか?
W:大阪で教えている先生の元に半年通った後に一度退会しましたが茶を教える先生として手伝って欲しいとお誘いを頂きました。自分なりに茶の修業の途中だったし、当初は自分のお店を開くつもりだったので迷いましたが、結局そこで茶を教える仕事を 3 年間勤めました。
T:それから独立ですか。
W:はい。屋号は前から「月乃音」と決めていました。乃月は本名です。「月乃音」という名前を掲げて、自分が見たこと、体験したことを伝えたいと思っていました。それで 30 歳で独立して、まず中国・雲南省を訪ねました。世界の茶樹の起源の場所だからです。樹齢 3000 年以上の古茶樹が密集する深い森の奥を必死で歩いて茶樹に触れてその生態を体感しました。
T:わー、いきなり冒険ですね。
W:1 ヶ月間、バックパッカーで行き当たりばったりの旅です。中国語は全然できないのに人から人に情報を繋いでいただきながら、お茶の樹や文化に触れたくて分厚い地図を頼りに「茶馬古道」という、かつて馬が茶を背負って貿易を交わした石畳を北上しました。チベットまで行き高山病にかかったり食中毒にもなり満身創痍です。気軽にはお勧めできません。



T:茶葉の仕入れはどうやって行っていますか?
W:最初の頃はよく茶市場へ行きました。北京や上海や深圳など大都市には、大きな茶専売マーケットがあります。片っ端から茶葉を見て歩き、試飲を重ねて、また歩き、気に入れば購入します。帰国したら茶葉の特徴を掴み、個性を引き出す淹れ方を試す、の繰り返し。好きな茶葉に出会えたら、製茶時期に再び中国に渡り、直接茶山を訪ねます。茶師たちから茶樹の環境や土壌を案内していただき、製茶器具やアトリエを見学して交流を深めます。
T:凄い!自分で全て確かめてから仕入れるんですね。
W:茶葉との出会いはいつだって新鮮で興奮します。産地の山の上の彼らのシンプルな暮らし、温かなお粥や野菜スープなどの食事。使い込まれた碗や箸で一緒に飲み食いし、その生活様式に触れることも尊い体験です。



T:近年、中国や台湾のギャラリーから日本の生活工芸の作家に声が掛かり、現地で展覧会を開いたり、中国茶の道具を作ったりする機会が増えています。今までなかった動きではないでしょうか?
W:そうかもしれません。私も茶会や稽古の依頼を頂き、この数年は絶えず催しを重ねています。今年 (2023 年 ) は台湾、そして中国の上海、杭州、厦門、泉州、武夷山、池州などを歩きましたが、日本人の茶への思考や器の美的観念に対する中国人の興味や関心を感じました。面白い現象です。
T:中国茶の小さな器は作るのが楽しくて、私はこれからもずっと作っていきたいんですが、まだまだ日本人作家による中国茶器は始まったばかり、作り手も茶人と同じようにお茶について学ぶ真摯な姿勢が必要ですね。
W:修練の末に心技体は揃います。思考や道理が合っていれば、お茶は人の心の襞に瞬間的に入っていきます。おいしいお茶を入れるために何が必要か、その一点に向けて私は技量を磨きたいです。互いに高め合えるように期待しています。
T:幅が広く、奥の深い世界です。一過性のブームに終わらせたくないと思います。
W:お茶は世界で一番おいしい飲み物だと確信しています。より愉快に、より自由に、そして平和に、全人類が美味しい茶のあるひと時を共有できることを願っています。



渡邊乃月(わたなべ・のづき)1972 年奈良生まれ、福岡育ち。アフタ ヌーンティー・ティールーム SAZABY 勤務、中国茶教室での指導勤務を経て、 2004 年独立、現在は兵庫県芦屋川を拠点に中国茶稽古「月乃音」を主宰。中国や台湾など東南アジアの茶産地への フィールドワークを積みながら、茶稽古 を中心として茶会や喫茶などの活動を国 内外で重ねている。


-編集後記-
お茶のルーツを確かめるため中国の森の奥まで訪ねていった渡邊さん。修業時代の冒険物語は一冊の本になりそうです。美味しいお茶を求めて現地を歩き、修練を繰り返す。穏やかでありながら凛とした佇まいは、体験に裏打ちされた自信と確信から生まれるのでしょうか。(鈴木)


76th exhibition

tea or coffee ?

2024.05.24 fri. — 06.23 sun.

※6/4(火)は営業。5(水) 6(木) はお休みとなります。
※6/7(金)はお茶会参加のお客様のみのご入店とさせて頂きます。


会期中、展覧会のテーマに合わせたイベントを開催致します。
◯前期:coffee ? 05.24 fri. — 06.04 tue.
・6/1(土) 2(日) オオヤコーヒ焙煎所・オオヤミノルの一日半マスター(ご予約不要)
◯後期:tea ? 06.07 fri. — 06.23 sun.
・6/7(金) 月乃音・渡邊乃月 teeor cafe茶会(ご予約制)※ご予約受付締切ました



対談:lifeを探して①「未来のアンティーク」

2024.04.4 interview

factory zoomer /lifeのオープンを機に、展覧会開催予定の作家を、オーナーの辻和美が訪ね語り合います。対談のテーマは新店舗の名前に掲げた「life」。初回の相手は4月にギャラリーの幕開けを飾るkrank(クランク)の藤井健一郎さん。「life」を探す旅の始まりは福岡からです。
(Tは辻、Fは藤井、対談は2024年3月、クランクで行った。文と写真・鈴木弘)


T:factory zoomer /lifeで最初の展覧会は絶対、藤井さんにお願いしようと決めていました。藤井さんは、見る人をワクワクさせるのが上手だから。最初、お洋服をメインで販売されていた時も、徹夜でディスプレイして、次の日に来るお客さんをびっくりさせるのが楽しみだったと話してましたよね。
F:はい、ほんと、それはすごい考えてました。
T:金沢の新しいギャラリーはプレーンな白い箱、かなりホワイトキューブなんで、やっぱり展覧会を行っていただく方に”魔法の杖”を振ってもらおうと思ってます。実はそれを頼りにしています!



T:さて、新しい場所の名前なんですが、英語の「life」ってちょっと重たい言葉かもしれないけど、「命」や「生活」、「人間」や「人生」「寿命」のほかに「時代」、「活力」、「大切な人」、「いきがい」、「パーティーを盛り上げる人」なんていう意味もあります。この中から気になるものを選んで、それをキーワードに話をしてもらいたいんです。作家さんと一緒に「life」を探す旅です。
F:そんなに色んな意味があるなんて知りませんでした。この中からパッと浮かぶのは「大切なもの、人」かな。お客さんに楽しんでもらいたいとお店をやってるわけですが、実は僕の中ではまず自分の母親を喜ばせたいという思いがあるんです。自慢の息子というか、誇りに思ってもらえたらいいなと。それはお店を始めた頃からずっとありますね。
T:えー、ちょっと意外でした。小さい頃はスポーツができないとか髪がチリチリとかでコンプレックスの塊だったと何かのインタビューで読みましたが。
F:弟が親の期待に応える子だったのに対して僕は対照的で、勉強も運動もできなくて学校もろくに行ってなかったのに、母は最後の最後までずーっと味方してくれました。若い時はそうでもなかったんだけど、歳をとるにつれてそれが徐々に胸に染みてきて、今はそんな風に思うようになりました。
T:けんかとかしないの?
F:今はしません。母親の生き方はパーフェクト、人として素晴らしい。空気をよく読んでみんながなるべくポジティブになるように考える人で、僕がどんなに悪いことをしても悪く言わなかったし、見捨てなかった。
T:じゃあお母さんの存在は今の制作とか物の選び方に影響してる?
F:それは間違いないです。実家は英会話教室で母は英語の先生でした。母は不良でも真面目な子でも、子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで、男の人でも女の人でも、平等に接するんですね。それを小さい頃からずっと見てた。僕たちがやってることも近いところがあって、若い子たちだけ分かればいいとは思ってないし、おじいちゃんが来ても外国の人が来ても「わー」って驚いてもらいたい。




T:まさにボーダーレスですね。私は価値観の決めつけが嫌で、色んな価値観を色んな人に見てもらいたい。そう思って作家さんを選んでます。だから既成概念を壊すクランクさんに展覧会をお願いしました。転がっていた動物(の置物)や枯れた花に目をとめて、みんながもういいやと思ったものをもう一度違う舞台に乗せる仕事をしている人は少ないと思います。そういう方々を紹介していく仕事をしたいです。
F:ヨーロッパでゴミみたいな扱いで置かれていた動物を持って帰って仕上げて、それが作品になって展覧会のDMにまでなって表舞台にもう一回出ていく。そもそもアンティークってそういう作業で、僕らはそんな仕事が好きなんだと思います。
T:以前話してくれた「未来のアンティークを作る」っていう言葉もよく覚えてます。
F:未来の人たちが骨董市で見かけたときどんな顔をするかなと想像するとすごく面白くて。別に自分の名前は残らなくていいんだけど、「この鳥がとまってる椅子ちょくちょく見るよね」なんて話したりしてね。



T:ここ数年、動物の作品が多いですよね。それはどうして?
F:本格的に取り入れるようになったのは7年ほど前からです。昔は展覧会も家具でやってました。アンティークはあくまでアンティークだから、もう一つ別の世界に行ってみたいなって。家に自分が本当に好きなものを置くとしたら鳥がとまってる椅子があったら僕は嬉しいなって思って、ディスプレイ用に作って飾っていたら、欲しいという人が現れた感じです。
T:今は、大人気で、あれば、みんな欲しがります。あと、ドライフラワーも使ってますよね。
F:植物は異素材だからストーリー、物語を作りやすいというか、自分たちの変装道具の一つみたい。それでたまに使う時があるんです。ドライフラワーのお店にしたいわけじゃないけれども、自分たちに絶対必要なものではあるかな。
T:ちょっとした衣装みたいなもの?
F:例えばマフラーを巻いたら服が決まるような。そういうパーツとしてある。
T:で次、こんなことやってみたいというアイディアは浮かんでいますか?
F:実はもう動いてるんだけど、まだできてないものがあって。僕はもともと音楽をやっていて、自分が本当にやりたいことは何か考えたら、究極はやっぱりアンティークと音楽のミッスクなのかな。どういう形になるかまだ分からないけど、次に何か新しいものをやるならそれだと思ってます。
T:具体的にはいつ頃?
F:今年中は無理だろうから、年明けごろにはちょっとでも見せられたらいいなと。
T:それはやっぱりモノとして形になるわけ?
F:動物のランプとかフラワーベースとか作ってるわけですけど、僕らって作家とプロダクトの間をやってるんですよ。自分はアーティストじゃなくて、あくまで家具屋だと思ってるんです。そこは踏み違えないようにしてます。作品としての価値が上がるというよりも、インテリアとしてみんなの中に入っていってほしい。インテリアです。
T:すでに表現者なのに。
F:ずっと家具屋できたから急にアーティストぶるのはこっぱずかしい、照れる。




T:それで金沢では、どんなことを考えてくれているのかな?
F:これで4回目の個展ですが、このタイミングでやる意味を考えないと。今、石川県に行くなら1月の能登半島地震をスルーすることはできないでしょう。助け合いと言うと大袈裟だけど、何か連鎖するとか、繋がるといったようなことをテーマにできないか考えています。見た人の気持ちが上がるようなものができたら嬉しいですね。
T:それは嬉しいです。金沢でも能登ほどではないけど、何かしら被害を受けた方々がいます。あと、少し気持ちが落ちていたりしているかもしれないです。このギャラリーも実際のオープンを4月にしたのも、人の気持ちが少し前を向く感じに変化してくる頃を待ちました。Krankさんたちの展覧会がさらに、それを後押しするようなものになると信じています。新しい場所にどんな魔法をかけてくれるか、とても楽しみです。




藤井健一郎(ふじい・けんいちろう) 福岡県出身。音楽学校を卒業後、音楽活動を続けながら福岡市内に2002年、洋服や雑貨のセレクトショップmarcello(マルチェロ)を設立。04年にヨーロッパのアンティーク家具を扱うkrankを設立し、全国各地で個展を開催。10年には株式会社sleepを立ち上げ、作品制作、空間プロデュース、舞台演出のほか音源制作も行なっている。

●旅のお土産情報:今回はB級グルメ
2日間の福岡滞在で焼きそば専門店「バソキ屋」、五島さばと五島うしが売り物の串焼享楽、博多駅近くの人気パン店ダコメッカ、地元で愛される糸島市の長浜ラーメン力(りき)、因幡うどん福岡空港店と粉もん攻め。カリッと焼いた麺が特徴の焼きそば、新鮮なサバの刺身をごまたっぷりの醤油ダレで頂くごまサバなど九州の味を満喫。ほかにお取り扱い店舗MORE LIGHT、LIGHT YEARSや、シルクロード展を見に福岡アジア美術館などに行ってきたよ。

-編集後記-
ヴィンテージの作業着を思わせる独特の風合いが魅力の英国ブランドを着こなす藤井さんは、笑顔のチャーミングな九州男児。光と影を効果的に使ったおとぎ話の世界のような空間作りの背景には、アンティークの本質と未来を見据える視点がありました。古いものに命を吹き込み次代につなぐ。愛とユーモアに溢れた作品は心優しい魔法使いからの贈り物のようです。(鈴木)




75th exhibition

krank

2024.04.19 fri. — 05.19 sun.

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